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東京高等裁判所 昭和22年(ナ)52号 判決 1949年3月30日

原告

加藤忠七郞

被告

静岡県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告訴訟代理人は「昭和二十二年四月十五日執行の浜松市長決選選挙の効力に関する原告の異議申立につき浜松市選挙管理委員会が同年五月五日になした決定及び該決定に対する原告の訴願につき、被告が同年七月二十一日になした裁決は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」という判決を求め。

事実

一、原告は昭和二十二年四月十五日に執行された浜松市長決選選挙について昭和二十一年九月十五日現在の有権者であるが、右選挙における総投票数は、三万八千二百七十三票で、内有効投票は三万七千九百十六票であつたところ、坂田啓造は一万九千五百三十五票を、大野篁一は一万八千三百八十一票を得たとして、浜松市選挙管理委員会は、坂田啓造を市長当選者と決定した。原告は、同選挙管理委員会に対し、右選挙の効力に関する異議の申立をしたところ、同選挙管理委員会は、同年五月五日、原告の異議を排斥する旨の決定をした。よつて原告はこれを不服として、被告に訴願したところ、被告は、同年七月二十一日、原告の訴願は相立たない旨の裁決をした。

二、然しながら右市長決選選挙は左の理由によつて無効とすべきものである。

(一)本選挙における総有権者数は五万七千四百三十九名で、五万二千四百八十八名は昭和二十一年九月十五日現在における有権者であり、他の四千九百八十九名は、脱落者、引揚者、復員者であつて、昭和二十二年三月中新たに臨時選挙人名簿に登載されて有権者となつたもの(以下新有権者と略称する)である。

(二)然るに(1)、市選挙管理委員会は、新有権者は右決選選挙において選挙権がないものとして、同委員会が予め新有権者に配布した投票所入場劵(<臨>の符号を附す)中決選選挙に関する部分を白紙にして配布して、新有権者に選挙権がないことを表示した。(2)、本件選挙事務に関係していた市役所の吏員中の新有権者については予め不在投票をなす機会を与うべきであるのにその機会を与えなかつた。(3)、市選挙管理委員会は、新有権者は決選選挙に選挙権がないという見解を持つていたので、当初は新有権者が右選挙当日投票に赴いたところ、係員は選挙権がないものとして投票を拒絶した。然るに同委員会は漸く当日午後三時過ぎに至り、新有権者も、選挙権ありとの見解に変じ、同時刻以後になつてから新有権者にも投票をさせるに至つた。以上(1)乃至(3)の点はいずれも市選挙管理委員会が選挙の手続を誤つたもので、右選挙は選挙の規定に違反し無効たるべきものである。而して同委員会が新たにとつた見解は新有権者に徹底せず、その中のある者は全く右見解の変更されたことを知らず、又ある者は一度投票に赴いたが投票を拒絶されたので他出してしまつた等のため、投票の機会を得なかつた者が大多数を占め、新有権者四千九百八十九名のうち投票したものは僅かに千五百四名に過ぎず、他の三千四百八十五名は棄権の形となつてしまつた。然し右は固より法律上に所謂棄権したものでなく、市選挙管理委員会が新有権者に選挙権がないものとして投票を拒んだ結果であつて、若し投票を拒まなければ、更に三千四百八十五名の投票を期待し得た次第である。而して当選者坂田啓造と次点者大野篁二との得票の差は千百五十四票であるから、右投票の有無は当選の結果に影響を及ぼすこと勿論である。(4)、仮に新有権者に選挙権がないものとすれば、本選挙において新有権者の投票した前記千五百四票は無効投票であつて、しかもその票数は右得票差を越えるから、いづれにしても選挙の結果に影響を及ぼすことになる。

従つて本件市長決選選挙は無効であるから、市選挙管理委員会のなした前記決定及び被告のなした裁決の取消を求める。尚被告の主張事実中、被告が原告の訴願を宥恕すべき事由ありとして受理して裁決したものであることは認めるが、その他の点は否認する、と述べ、立証として甲第一号証、第二号証の一、二、第三証の一乃至十五を提出し、証人水島重夫、高林隆、内ケ崎治夫、山本幸雄、山本仲治、鈴木基次(第一回)大石力の各証言及び原告本人加藤忠七郞の訊問の結果を援用し、乙第十二号証の成立を認め、その他の乙号各証の成立は不知と述べた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。という判決を求め、答弁として、原告主張の一の事実は認める。二の事実中(一)の事実及び(二)のうち浜松市選挙管理委員会が新有権者に予め配布した投票所入場劵(<臨>の符号を附す)中の決選選挙に関する部分が白紙であつたこと、右委員会が選挙当日、当初は新有権者には本件決選選挙における選挙権がないという見解を持つて新有権者の投票を拒んだが、後に選挙権ありという見解に改めたこと並びに新有権者四千九百八十九名のうち投票をした者が千五百四名であつたことは、いずれも認めるが、その他の点は否認する。

第一、原告の本訴請求は先ず次の理由で棄却せらるべきである。すなわち、原告は本件市長決選選挙に関し昭和二十二年四月二十一日市選挙管理委員会に対し選挙の効力に関する異議の申立をしたが、同委員会は同年五月五日、原告の異議を排斥する旨の決定をした、原告はこれに対し訴願期間内である同年五月二十一日に訴願法第二条第一項所定の右処分をした市選挙管理委員会を経由せず、直接被告に訴願を提起したがその裁決前同年七月二日に訴願を取下げた上、再び訴願期間を経過した同月八日に、同委員会を経由して被告に訴願した。而して被告は右は「宥恕すべき事由あり」として原告の訴願を受理して本裁決をしたのである。然しながら原告が当初市選挙管理委員会を経由しないでなした訴願は、訴願手続に違背したもので、訴願法第九条第一項に所謂「適法の手続に違背するもの」であるから、右訴願は当然却下せらるべきもので同条第二項に所謂「訴願書の方式を欠くに止まるもの」として訴願書を期限を付して還付すべき場合ではない。後者のような場合は或いは宥恕の事由となり得るが、右の場合は訴願は適法な手続に違背するものとして当然却下さるべきものであるから、訴願期間経過後再び提起された訴願につき、右は何等宥恕すべき事由となり得ないものといわなければならない。故に他に期限経過につき何等かの宥恕すべき事由がない限り、原告の再度提出した本件訴願は違法として却下すべきであつたのである。然るに被告はかかる違法な訴願を却下せず、他に期限経過につき宥恕すべき事由ありや否やを審査することなくこれを受理して裁決したのは、そのこと自体全く違法であつて、結局原告は適式な訴願に基いて適式な裁決を受けたものといえないから、原告は地方自治法第六十六条第四項に基き本訴を提起する権利を獲得したものといえない。従つて原告の本訴請求は棄却さるべきである。

第二、仮に右主張が理由ないとしても、市選挙管理委員会は、原告主張のように、当初は新有権者には本選挙における選挙権がないという見解をとつていたので、最初のうちは投票に来た新有権者の投票を拒んだが、後に選挙権ありという見解に改めたので、全市にわたりこれを周知徹底せしめ、当日午後三時までには完全に新有権者に投票の機会を得せしめたのである。かような措置をとつて新有権者に投票権を行使する機会を与えた以上、仮に当初にとつた手続に違法があつても、その手続の違法はこれによつて是正せられて、本選挙が適法に行われなかつてものということはできない。唯一部選挙権あることの周知徹底ができず選挙権の行使の機会が与えられなかつたものについてのみ、手続の違法の問題が生ずるだけである。然もこの部分につき手続の違法があるものとしても、その票数は僅かに八百五十一票に過ぎない。すなわち市選挙管理委員会は、本選挙終了後投票しなかつた新有権者三千四百八十五名全部につき一一調査を遂げたところ、次の通りのことが判明した。

(イ) 既に死亡していたもの    四十二名

旅行の爲棄権したもの  二百六十五名

病氣が棄権したもの   二百八十二名

未復員者        七百三十一名

市外に転出してしまつたもの 三十九名

基本名簿と重復したもの   七十七名

(ロ) 投票ができることを知らされたけれども自分の都合により棄権した者 千百九十八名

(ハ) 住所不名の者 五十五名

(ニ) 投票拒絶後、投票できることを知らなかつた者 六百九十名

(ホ) 投票できることを知らされたが不在の爲投票できなかつた者 百六名

以上

右のうち(イ)の分千四百三十六名は選拳権があることを知つたと否とに拘らず、選挙権がないか、又は選挙権があつても投票ができなかつたものであるから、選挙の無効と関係なく、(ロ)の分千百九十八名も自己の自由意志による棄権というべきであるからこれ亦同樣である。(ハ)(ニ)の分は投票拒絶後選挙権あることの周知徹底を欠いたことにより投票できなかつたものと見るの外ないから、この分については選挙の無効と関係あるものというべきである。(ホ)の分は投票できることを聞いた後に外出したのか、外出後知らされた爲に投票できなかつたのか不明であるから、全部後者と見て、この分も選挙無効と関係がある。そうすると選挙権あることの周知徹底を欠いた爲選挙の無効を招來するとしても右(ハ)(ニ)(ホ)の分の合計八百五十一名に過ぎないものといわなければならない。然るに当選者坂田啓造と次点者大野篁二との得票の差は千百五十四票であるから、本件選挙につき右八百五十一名の分が一部無効だとしても、右得票差に逹しないから、右は本選挙の結果に異動を及ぼす虞れがないものというべきである。從つて本件選挙の手続に違法の点があつてもこれを取消すべきでない。

第三、仮に被告の前記第一、第二の主張が理由がなく市選挙管理委員会のなした決定及び被告のなした裁決が取消すべきものであるとしても、坂田啓造は本選挙に当選して市長に就任して以来既に二年に近く、その間治績大いに挙り、十三万余の浜松市民は、同人が任期中市長として在職することを熱望し、本裁判の結果再び前同樣の日時と手数と費用を費して決選選挙を行うことを絶対に望んでいない。故に右決定及び裁決を取消されることは浜松市民全般の福祉に適合しないから、行政事件訴訟特例法第十一条により原告の請求を棄却すべきである、と述べ立証として乙第一号証の一乃至四十二、第二号証の一乃至二百八十二、第三号証の一乃至二百六十五、第四号証の一乃至七百三十四、第五号証の一乃至三十九、第六号証の一乃至七十七、第七号証の一乃至千百九十八、第八号証の一乃至五十五、第九号証の一乃至六百九十、第十号証の一乃至百六、第十一号証の一乃至百十五、第十二号証、第十三号証、第十四号証の一乃至七、第十五号証の一乃至九十、第十六号証の一乃至八十一、第十七号証の一乃至十五、第十八号証の一、二を提出し、証人伊賀正一、廣田国吉、鈴木吉次松居晴雄、小山正、山本仲治、鈴木基次(第一、二回)、大石力、水島重夫、高林隆、内ケ崎治夫、山本幸雄の各証言を援用し、甲第一号証、第二号証の一、二の成立を認め、同第三号証の一乃至十五は不知と述べた。

理由

原告が昭和二十二年四月十五日執行された浜松市長決選選挙における総投票数が三万八千二百七十三票で、その有効投票三万七千九百十六票中坂由啓造は一万九千五百三十五票を大野篁二は一万八千三百八十一票を得たとして、浜松市選挙管理委員會が坂田啓造を市長当選者と決定したこと、原告が同委員会に対し、右選挙の効力に関する異議の申立をしたところ、同委員会は同年五月五日原告の異議を排斥する旨の決定をしたこと、原告は右決定に対し、被告に訴願したところ、被告は同年七月二十一日原告の訴願は相立たない旨の決定をしたこと及び原告がこれを不服として本訴を提起したものであることはいずれも当事者間に争がない。

よつて先ず被告の第一の主張につき判断するに、成立に争ない甲第一号証によれば、原告は右選挙管理委員会がなした前記決定に対し、訴願期間内である同年五月二十一日同委員会を経由しないで直接に被告に訴願をしたが、被告がこれに対する裁決をする前、同年七月二日一旦これを取下げた上、改めて訴願期間経過後である同月八日同委員会を経由して被告に訴願を提起したところ、被告はこれを訴願法第八条第三項に所謂「宥恕すべき事由」あるものと認めて受理した上前記裁決をなしたものであることが認められる。ところで同条に所謂「宥恕すべき事由」ありや否やの認定は行政庁の自由裁量に属し、その自由な判断によつて、ある事項につき宥恕すべき事由があるかどうかが定められるものと解すべきであるから、被告が原告がなした前記の訴願を宥恕すべきものとして受理したことは何等違法ではなく、被告のこの点の主張は採用できない。

次に本選挙の手続に原告主張のような違法の点があるかどうかを審究するに、本選挙における総有権者数が五万七千四百三十九名で、内五万二千百八十八名は昭和二十一年九月十五日現在の有権者であり、他の四千九百八十九名は脱落者、引揚者、復員者等の昭和二十二年三月中新たに有権者となつたものであること、右選挙管理委員会が本選挙において新有権者に対し予め決選投票に関する部分を空白にした投票所入場劵<臨>の印を附す)を配布したこと及び同係員が当初新有権者には本選挙における選挙権がないという見解を持し選挙当日投票に來た新有権者に対し投票を拒んだが、後に新有権者も選挙権ありと見解を改め、新有権者にも投票をさせたことはいずれも当事者間に争なく、証人鈴木基次(第一、二回)及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第十七号証の一乃至十五によると、新有権者の内七名は不在投票の申出をしたところ、同委員会からその申出を拒まれたことが認められ、又右証人の証言と成立に争ない甲第二号証の一、二によれば、同委員会は右のような新有権者は本選挙における選挙権がないという見解を持つていたので、新有権者以外の有権者には決選選挙欄にその投票日時等を明記した投票所入場劵(其後に行わるべき衆議院及び参議院議員選挙の爲めの入場劵と並べて一枚の紙に印刷したもの)を配布したのに、新有権者にはこれに該当する部分を空白にした前記のような投票所入場劵を配布したことを認めることができる。

而して新有権者が本選挙の選挙権があることは、昭和二十二年法律第二号衆議院議員選挙法第十二条の特例に関する件及び同年内務省令第三号衆議院議員選挙人名簿の臨時特例に関する件等により明らかであるから、右選挙管理委員会が選挙当日前記のように、当初新有権者の投票を拒んだのは、選挙執行の手続に違背したものであり又新有権者の不在投票を選挙権なしとして拒んだことも亦同樣選挙の手続を誤つたものというべきである。然しながら新有権者に決選選挙欄を空白にした前記のような他の選挙の爲の投票所入場劵を配布したことは必ずしもかゝる入場劵の配布を受けた者は、選挙権がない旨を表示したものと認めることはできないし、又一般的に見て入場劵の所持は投票権行使の要件でもないのであるから、右のような入場劵を配布したことを以て選挙手続に違反するものであるという原告の主張は採用できない。

被告は、市選挙管理委員会の本選挙の執行手続に右のような違法の点があつたとしても、同委員会は選挙当日新有権者にも選挙権ありと見解を改め、同日午後三時までに全市にわたりこれを周知徹底し完全に新有権者に投票をさせる機会を得せしめ爾後選挙は適法に行われたから、右手続の違法は是正せられ、徹底を欠いた新有権者についてのみ手続違背の問題が生ずるに過ぎないと主張するから、按ずるに証人鈴木基次(第一、二囘)山本仲治、大石力、広田国吉、伊賀正一、中村勝五郞、松居晴雄、小山正の各証言及び右鈴木基次の証言により、真正に成立したものと認められる乙第十一号証の一乃至百十五等を綜合すると、右選挙管理委員会は選挙当日前記のように新有権者は選挙権がないとの見解の下に投票を拒んでいたところ、午前十一時半頃、県当局の指示により、選挙権ありとの見解に改め直ちに各投票所、各町総代に依賴してこれを區内に周知徹底せしめ、大会社、大工場等有権者の多数居る所には電話を以て知らせ、又自動者、自転車等を使用して市内をメガホンによりふれ歩かせる等あらゆる方法をとつて全市内に右の周知徹底をした結果、後記のような特殊の一部周知できなかつた者を除いて大部分の者は投票権を行使するに支障がなかつたことを認めることができる。

かように新有権者に投票権があることが周知できて選挙権を行使するにつき何等の支障をも生じなかつた者に関する限りにおいては、当初の手続の違法の故に本選選を無効とする理由は毫末もないから、この分については右委員会のとつた措置によつて前記手続の違法は是正され、本選挙手続は適法に行われたものと解するを正当とする。然しながら右委員会のとつた前記措置によつて選挙権があることを周知させることができないか、若しくは知らされたが時間その他の都合で投票することのできなかつた者については依然として手続の違法が存するものと解すべきであるから、右委員会がとつた前記措置によつて当初の手続の違法が完全に是正されて、本選挙が全く違法の点がなくなつたものという訳にはゆかない。

以上の次第であるから、本選挙は、右手続の違法によつて選挙の結果に異動を生ずるの虞れがあるかどうかによつて、これを無効とすべきか否かを決すべきものといわなければならない。よつてこの点につき審究するに、原告は、右委員会が新有権者の投票を拒まなければ、新有権者四千九百八十九名中本選挙において投票しなかつた三千四百八十五名の投票を期待し得たのであり、当選者と次点者との得票差は千百五十二票に過ぎないから、右手続の違背は選挙の結果に異動を生ずる虞れがあること明らかであると主張し、右新有権者中本選挙に投票しなかつた者が原告主張の通りの員数であることは当事者間に争ないところであるけれども、証人鈴木基次の証言(第一、二回)及び右証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一乃至四十二、第二号証の一乃至二百八十二、第三号証の一乃至二百六十五、第四号証の一乃至七百三十四(但し同号証の六、六十一及び百七十八を除く)、第五号証の一乃至三十九、第六号証の一乃至七十七第七号証の一乃至六百九十、第十号証の一乃至百六、第十四号証の一乃至七、第十五号証の一乃至九十、第十六号証の一乃至八十一等を綜合すると、本選挙に投票しなかつた三千四百八十五名の新有権者中

(イ)選挙当時既に死亡してしまつた者四十二名、投票権を行使できたのであるが病氣で投票しなかつた者二百八十二名、投票権あるを知りながら当日旅行の爲投票しなかつた者二百六十五名、選挙当時における未復員者七百三十一名、選挙当時すでに市外に転出してしまつた爲投票しなかつた者三十九名、基本名簿と重復して臨時名簿に登載されていたもの七十七名、以上合計千四百三十六名

(ロ)投票できることを知らされ投票できたのであるが、自分の都合で棄権した者は千百九十八名

(ハ)住所不明の爲、投票しなかつた理由のわかならい者五十五名

(ニ)投票を拒絶された後投票権があることを知らなかつた者七百四十五名

(ホ)投票できることを知らされたが知らされた当時不在の爲投票できなかつた者百六名

であることが認められ、右認定に抵触する証人水島重夫、高林隆の各証言及び原告本人訊問の結果は採用しないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。而して右(イ)の分千四百三十六名は市選挙管理委員会の投票拒絶その他の手続の違法がなかつたとしても、投票を期待し得ないものであることは明らかであり、

(ロ)の分千百九十八名は自己の自由意思によつて棄権したものであるから、この分も同委員会の手続違反があつたと否とに拘らず、投票を期待し得なかつたものと認めるのが相当である。然し(ハ)の分五十五名はいかなる理由による棄権か不明であるから一応同委員会の手続違背がなければ投票を期待し得たものと認めるを相当とし、(ニ)の分七百四十五名は明らかに同委員会の手続違背がなければ投票を期待し得たものというべく、最後に(ホ)の分百六名も反対の事実なき限り同樣投票を期待し得たものと認めるを相当とする。然らば本件の違背があつた爲に投票できなかつた者は右(ハ)(ニ)(ホ)の分合計八百五十一名だけで、他は手続の違背がなくても投票を期待できなかつたものというべきであるから、右投票をしなかつた新有権者三千四百八十五名全部につき投票を期待し得たものである、といふ原告の主張は採用できない。そうすると仮に右八百五十一名の新有権者が投票したとしても、右投票数は、前段認定により明らかな如く当選者坂田啓造と次点者大野篁二との得票差千百五十二票に逹しないから、結局本選挙につき右選挙管理委員会のなした手続の違法は、本選挙の結果に異動を生ずる虞れがなかつたものといわざるを得ない。從つて本選挙は原告主張の選挙手続に違法ありとしてこれを無効とすることはできない。よつて原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用につき地方自治法第六十六条第七項衆議院議員選挙法第百四十一条民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

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